こんにちは。社会人教室です。
社会人教室では夏期公開講座として『院展作家・阿部任宏の日本画表現シリーズ①』『院展作家・阿部任宏の日本画表現シリーズ②』を実施いたします。
『院展作家・阿部任宏の日本画表現シリーズ①』
※この①講座は定員に達しましたので締め切りました。7/6現在
日本画制作が初めての方でも学べる1日の完結の「素材体験型」講座です。
必要な用具は貸し出しますので、手ぶらでOKです。
テーマは味覚です。日本画の画材を使用して「美味しい絵」に挑戦してみましょう。
【開催日時】
2018年7月21日(土)9:30~16:30※お昼休憩を含みます。
【受付期間】
2018年6月20日(水)~7月12日(木)
詳細は下記をご覧ください。
【開催日時】
2018年8月25日(土)と26日(日)
各日9:30~16:30※お昼休憩を含みます。
【受付期間】
2018年6月20日(水)~8月16日(木)
詳細は下記をご覧ください。
栗木義夫×阿部任宏「社会人教室を語る」
―それでは、本日は社会人教室について色々語ってもらうということで、おふた方よろしくお願いします。栗木: よろしく。
阿部: どうも。
―では早速ですが、社会人教室の成り立ちに関して、教えてください。
栗木: 最初は、言ってみれば将来的な少子高齢化を見据えての文化事業戦略ですね。もちろんやるからには面白いものをということで、著名な作家を招いて開講しました。
―社会人教室は、当時から現在のような形式だったのですか?
栗木: いや、最初は版画教室「サードスタジオ」が発足して、そこから順次油絵や日本画、広く絵画をあつかったクラスなどができました。
阿部: まぁ、一般的なカルチャーの形式ですね。
―現在では、特殊な機材が必要な版画以外は専攻別クラスを設けていませんが、そこに至った経緯をお願いします。
栗木: まず前提として、我々2人は以前、高1・2生対象のクラスで指導していたのですが、その中で造形教育というものを強く意識するようになったんですね。それがまず念頭にあります。
―造形教育ですか?
栗木: 子供の頃にもっていた感性とか個性って、大人になるにしたがって失われていくことがとても多いんですね。
阿部: だから我々は、個の感性を高めていくためのプロセスというものに、注目しました。
栗木: まずはデッサンからはじめましょう、次に色を塗ってみましょうとか、そういう教育ではありません。美術は1+1=2のような、明確な答えはないし、誰にでもあてはまるマニュアルもない。仮にあったとしても、それを行ってしまえば個性を育むのとは程遠い教育になってしまいます。
阿部: 海外では、まず土台としてファンデーション...つまり基礎造形課程で同時にさまざまなことを勉強して、そこから自分がやりたいこと、学びたいこと、向いていることを自分で見つけられるようになっています。
栗木: 社会人教室では、その仕組を率先して取り入れています。本当にやりたい表現を学ぶために、あえて専攻の壁を取り払って授業を行っています。考え方やキッカケを伝えることで、自分自身の価値観や基準というものを伸ばしていきたいという想いが強いですね。
―現在、社会人教室のアトリエは、日本画を描く方、油絵を描く方、造形ゼミやデッサンに参加する方が、同空間で制作していますね。
栗木: これは、既存のカルチャーからすると、すごく珍しい光景だと思います。皆さんもその環境を楽しんでいると感じます。異なるジャンルに対して拒絶するのではなく、刺激を受けあって表現に生かされています。この環境は、なかなかつくれないんじゃないかと思いますよ。
阿部: 複数の生徒さんが同じ空間にいることで、制作の進め方や考え方に幅がでていますね。結果、類型や模倣というのが減りました。
栗木: 自主的にグループ展を継続して実施する方や、公募展に入選する方も増えてきました。
―なるほど。より深く美術を学ぶために専攻の壁を取り払って、現在の社会人教室ができあがったわけですね。しかし、お手本や明確な完成形がないと言うことは、容易さやてっとり早さを求める人には向かないということになるのでは?
栗木: それはあるかもしれません。どうしても社会人経験が長い人ほど、固定観念が強くなる傾向にありますし。ですが、それを解きほぐしていくことが、アートを学ぶにおいて大事なことなんです。
阿部: 現状でも、難しい話はいいから、技法技術を早く教えてほしいとおっしゃる方もいらっしゃいます。
栗木: けれども、技法や技術だけで生まれた作品は、その技だけを科学的に分析すればきっと再現できてしまうんですね。アートとは再現ではなく、誕生...生み出すものです。だから、技法技術を求めるだけでは、成長が見込めなくなってしまいます。
―作品を制作するためには、技法技術は必要ですが、そこに終始していてはいけないと。
栗木: この表現をするのに何が必要か?と考えた時に、技法や技術が必要になるわけであって、順番が逆になるのは好ましくないんじゃないかと考えています。大切なのは、自分と向き合うことであり、それができるようになるために何が必要かということではないでしょうか。
―では、社会人教室では、実際どういった授業をおこなっているのでしょうか?
栗木: カリキュラムの提供ですね。これはもう、毎年本当に頭を使って考えています。
―カリキュラムの提供ですか?具体的にはどういった内容でしょうか?
栗木: まず、単純に何かを描きましょうという授業ではありません。少し専門的な話をしますが、表現というものがどのように始まっていったかという歴史を振り返ると、後期印象派以降がキーになります。この頃に個としてのアーティストが成り立ったと考えています。それ以前とどう異なるかというと、作家が個人の興味を優先して表現するようになったことです。その個人の興味ということに注目して、年間の計画を考えています。
―とても難しそうな内容に思えますが...
栗木: 個人の興味と表現方法のバランスが噛み合うと良い作品が生まれるんですが、その個人の興味って必ずしも意識化されているものとは限らないんですね。それを知るために、リサーチワークというものを重要視しています。たえず興味のあるものをリサーチして、他者との違いを認識するとともに、いかにビジュアル化するかを考える授業ですね。他には、模写も重要視しています。
―模写ですか?どういった意味合いで模写をおこなうのでしょうか?
栗木: 先ほど言ったように、再現としての模写ではありません。例えば、デッサンで模写をする授業がありますが、作品鑑賞や素材の置き換え研究、何故こういった作品をつくったのかという作家の追体験など、模写をすることでさまざまなことが得られるんですね。だから、同じ作品を模写しても、皆さん違う切り口で描いてきます。長年取り組んでいる方になると、作家の人間性まで読み解きはじめますからね。
―毎年実施しているアートスペースNAFでの展示を見ると、確かにどこかで見たような絵ではなく、個性豊かな作品が並んでいるように思います。
栗木: だいたい三年位通えば、作家として独り立ちできるんじゃないか?という気持ちでカリキュラムをつくっています。それでも受講生の皆さんが3年以上継続して受講してくださるのは、やっぱり環境だと思うんですね。この環境が刺激的で、かつ居心地がいいと。
阿部: 先生としての意見を求められることはもちろんありますが、我々こそ、この環境から学ぶことがたくさんあります。作品を発表する人間として、受講生の皆さんには感謝しています。
―さて、そんな社会人教室では、夏期公開講座として、阿部任宏先生による日本画表現シリーズを実施するわけですが、こちらについても教えてください。
阿部: 内容としては、初心者向けと経験者向けの二講座を用意しました。初心者向けの講座では味覚をテーマにしています。描くためのヒントはこちらで用意するけれど、具体的に何々を描きましょうという授業ではありません。味覚という誰にでもわかるイメージを元に、美味しい絵と感じられる作品を、どうやって描くかを伝えられたらと思います。そして、経験者向けの講座では、二日間かけて新鮮な鯵のリアル表現をテーマに制作しますが、これもただ描くのではなく、日本画制作のプロセスに、もう一度目を向ける機会もつくりたいと考えています。あらたな表現のキッカケになるような授業にしたいと思っています。
栗木: 本当は時間をかけていろいろなことを学んでもらいたいけれど、皆が皆、社会人教室に通う時間的余裕があるわけじゃないですからね。それでも、今回の公開講座に参加してもらえたら、他とは一味違う経験ができるはずです。
阿部: 日本画に対して、色々なイメージがあるかも知れませんが、参加してもらえたら得ることは多いんじゃないかと思います。
―美術は、なんとなく自分にはできないと思っている方が多いように感じます。特に日本画というのは、一般的な学生生活を送っていたらまず触れることのない画材だと思います。ですが、今回の講座を受講することで、自分にもできるという経験をしてもらえたらなによりですね。
栗木: あと、日本画とは違いますが、9月頃には著名な作家さんを招いて、木版画のゼミも検討しています。好評だったら、二回目、三回目と、いろいろな講座を行っていきたいですね。
阿部: 少しでも興味をお持ちでしたら、尻込みせずにぜひ申し込んでくださいね。
平成三十年五月
社会人教室アトリエにて