2019年11月4日 河合塾美術研究所1Fロビー

河合塾美術研究所ギャラリー Kart Invitation Program の10周年に際し、VOCA展2018でVOCA賞を受賞し、あいちトリエンナーレ2019に招待された、河合塾美術研究所出身である碓井ゆいさんに、河合塾時代が現在のご活躍にどう繋がるか、語っていたただきました!



●60・70 年代アートに触れ、カッコイイ!と思ったことが原点?

司会 受験時代のことや、現代アートに対する興味を持ったきっかけなどを聞かせてください。

碓井 河合塾美術研究所の授業で現代アートのゼミがあり、ヨゼフ・ボイスや、ロバート・スミッソンを見せられて、こういう世界を自分は目指しているのかな、と思ったことがきっかけです。受験時もオールオーバーな、平面的な絵を描いていて、その世界観は後にも繋がっていると思います。多摩美入学後も油絵は描かず、卒業制作もドローイング的な作品を描いていました。


「河合塾時代の静物油彩」

司会 作品のテーマ性は、まだ強くない時代ですね。

碓井 当時のアートシーンは、日常をテーマにした展覧会や、私的で小さな世界をモチーフとした作品が多かった時代で、その影響もあったのかもしれません。大学院は、京都市立芸大に行ったのですが、ものの痕跡などに興味を持って制作をしていました。修了制作は、パーティーの痕跡を、素材をエイジングさせることで表現しています。


「after the party」

司会 喪失感を感じさせるダークな影の面も見えますね。その後の作風も少し感じます。エイジングは、拾ってきたのでなく自分で一から作る。

碓井 そうですね、わざわざ作り込むめんどうくささ...描いたものを汚して壊す狂気のような、人間の欲求にも興味がありました。

●東日本大震災を転機に社会問題に関わる

碓井 2011年の震災、原発問題は本当にショックで、これを機に社会構造に関 わる本を読むようになりました。その中でフェミニズミの本は、ダイレクトに自分の生き方に関わっていると感じたのです。今回展示している「shadow work」は、家事など、女性の労働とされがちな無報酬の労働をシャドーワークと言いますが、実際の「刺?」や「影」と意味をかけています。


「Gallery Kart会場風景」

司会 これまで、個人的で些細なところから作品を作っていたところに、甚大な自然の力と政治的な問題が身に降りかかり、外部のことを考えざるを得なくなったということでしょうか。

碓井 そうですね。ただ、作品を作ることは、政治的なことを伝えるために行っているわけではありません。VOCA賞をいただいた「our crazy red dots」は、高校(都立国立高校)時に疑問を持った国旗問題からで、あいちトリエンナーレ2019に出品した「ガラスの中で」は、自分の不妊治療の体験から生殖医学に関わるモチーフを用いていますが、そういうことを考えている人間がどういうものを作りだすのかを見てほしいです。



「our crazy red dots」撮影:上野則宏氏

司会 先のダブルミーニングだとか、意味と形象を結びつけることは常に考えているのですか?

碓井 ネタ帳はつくっていますね。意味とかたちは、作品によってすぐに繋がったり、繋がらなかったり...「our crazy red dots」の時はすぐにかたちにできましたが、あいちトリエンナーレの時はすごく悩んだり。ネタ帳も、そのまま使えないものがほとんどですが、それでも本を読んだり、映画を観たり、インプットをたくさんしてほしいです。

●美術をやる限り政治的なことから逃れられない

質問 制作をする上で「核」となるようなものはありますか?

碓井 まだ探っていますね。最近は、説明的な意味での「ことば」に頼らない作品を心がけています。造形的な理由と、みんなが文字を読めるという前提に対する疑問からです。

質問 政治に巻き込まれても作る理由は?

碓井 美術をやること自体、政治的なことから逃れられないと思います。それがなければ、アートはただ、趣味の問題になってしまい、力のある人の価値観が勝るということになってしまう。別の政治的な考え方を取り入れないと、それを乗り越えられないと思います。

司会 「別の政治的な考え方」という視点はすごく大切ですね。本日はありがとうございました。